原発を考える《原発事故がもたらす″心災″003》文 井上脩身

政府への信頼感なくす

(将来の町への帰還意思の変化)
2013年=戻る11%、まだ決められない30%、戻らない59%
2016年=戻る10%、まだ決められない18%、戻らない72%
2019年=戻る7%、まだ決められない23%、戻らない70%
(幸福度の変化)
(全国2019年、0~4点・27%、5~7点・48%、8点以上・25%)
2014年=0~4点・48%、5~7点・41%、8点以上・11%
2016年=0~4点・38%、5~7点・47%、8点以上・15%
2019年=0~4点・25%、5~7点・54%、8点以上・21%
(政府への信頼感の変化)
震災前=強くそう思う1%、そう思う36%、そう思わない48%、まったくそう思わない16%
2016年=強くそう思う1%、そう思う17%、そう思わない50%、まったくそう思わない32%
2019年=強くそう思う・1%、そう思う・25%、そう思わない・45%、まったくそう思わない・29%。
(福島県への信頼感)
震災前=強くそう思う7%、そう思う55%、そう思わない31%、まったくそう思わない7%
2017年=強くそう思う5%、そう思う45%、そう思わない37%、まったくそう思わない13%
2019年=強くそう思う5%、そう思う49%、そう思わない33%、まったくそう思わない13%。
(居住地区の隣人への信頼感の変化)
震災前=強くそう思う18%、そう思う62%、そう思わない18%、まったくそう思わない2%
2017年=強くそう思う3%、そう思う51%、そう思わない36%、まったくそう思わない10%
2019年=強くそう思う・3%、そう思う・52%、そう思わない・36%、まったくそう思わない・9%

幸福度低下の可能性

居住地や住居の変化についての分析
震災後、90%が3回以上転居し、16年の回答では40%の人が6回以上転居している。震災5年後から転居回数が増えていないのは、震災直後の公民館などでの短期的な滞在を転居回数に含まない「思い出しバイアス」が影響している可能性がある。
2013年から17年にかけ、県外に避難した人が県内に戻ってくる傾向がみられる一方で、2016年には多くの人が避難先で新たに住宅を購入している。
同居家族については、震災前は50%以上が3人以上いたが、震災後は減少。震災後、避難先で友人が増えておらず、社会的つながりが弱まっている可能性が示唆される。
世帯年収が減っており、就労支援が生活の安定のための重要な課題となっている。

健康状態の変化についての分析
(主観的健康)
震災前は75%が「良い」「大変良い」と評価していたが、2016年時点では23%程度に減少、その後の回復は緩やかである。
(こころの健康)
K6については、2013年から16年にかけてすこしずつ改善。日本全体と比べると高い値であり、回復には長い時間がかかる可能性がある。とくに仮設住宅に住む人のK6の値は13年から17年にかけて高くなっている。仮設住宅での生活がこころにストレスを与え、こころのストレスが大きいことで、次の住まいへの移動が困難になっている可能性がうかがえる。復興公営住宅に住む人のK6が高い傾向にあり、継続的なこころの健康サポートが重要であることが示唆される。

気持ちの変化についての分析
(将来の町への帰還意志)
2013年には6割が町に戻らないことを決めている。その後も、時間が経過するにつれその傾向が高まっている。
(幸福度)
全国では25~30%が8点以上で幸せと感じ、4点以下で不幸と感じている人は20~30%。双葉町では2014年、4点以下が5割で、震災によって幸福度が下がった可能性が示唆される。その後、幸福度の低い人は減り、19年時点では4点以下は3割となり、全国と変わらないまでに回復している。
(信頼感)
震災前は、4割が政府は信用できると考えていたが、2016年は2割になり、政府への信頼感が低下したことが確認できる。県に対する信頼感は政府より高いが、震災後は信用できるという人が減少。原発が安全と説明してきたことへの不信感や、事故対応による不信感を示している可能性がある。
隣人への信頼感については、震災前、8割が信用できるとしていたが、震災後は信用できると答えた人が減少。震災で離ればなれになり、新しい隣人をもつことで以前の隣人への信頼感が下がったことを示している。

複合的災害の複合的被害
震災後に同じ場所で生活再建が可能な場合が多い地震や津波などの自然災害に比べ、原発事故という人的災害によるこころの健康への影響は、より長期的で甚大である可能性がある。(明日に続く)