原発を考える《原発事故がもたらす″心災″005》文 井上脩身

とのつながり持てる対策を

現在バイアスとこころの健康の変化について
(中学生のころ夏休みの宿題をいつやったか)
(日本全体=最初のころ20%、どちらかというと最初のころ20%、毎日ほぼ均等13%、どちらかというと終わりのころ23%、終わりのころ24%)
2016年=最初のころ12%、どちらかというと最初のころ23%、毎日ほぼ均等14%、どちらかというと終わりのころ36%、終わりのころ15%
双葉町の人は「どちらかというと終わりのころ」と「終わりのころ」が全国に比べ少し多い傾向があり、現在バイアスが強いことがわかる。
年賀状投函時期
(日本全体=12月25日以前39%、12月26日~31日44%、1月1日以降17%)
2016年=12月25日以前71%、12月26日~31日17%、1月1日以降12%
双葉町民は年賀状を出す時期が非常に早い傾向にある。同町では65歳以上の人は1月1日に着くように出すことの重要性を高く感じていることがうかがえる。

以上の調査の結果、岩崎氏は次のように結論づけた。
こころの減災に向けて①仮設住宅の長期滞在者や復興公営住宅滞在者へのケアの充実②被災前のつながりを保つことができる避難や、避難先での人と人とのつながりをつくるための取り組み③十分な賠償と災害の喪失への対策④現在バイアスの増大による健康への負の影響を防ぐ対策――が重要であることが明らかになった。

岩崎氏の調査で私は年賀状をいつ出すかを尋ねていることに意外感をおぼえた。このことが、被災者の心の在りようと何の関係もないと思ったからだ。しかし、よく考えてみると、1月1日に到着していることを重要視している人が多いのは、昔からのつながりを大事にする保守的な人が多いことを示しているといえるだろう。それだけに古里の喪失は心に大きな打撃を受けるのである。
岩崎氏のレポ―トから浮かび上がるのは、原発事故による放射能への恐怖、それに伴う避難によって起こる見えざるこころの病、あるいはストレスである。原発事故は地元の人たちのこころに災害をもたらしたことをデータで表した意義は決して小さくない。
岩崎レポートから浮かび上がるのは、震災が原発とからむと容易に回復しない″心災″になるということであろう。傷ついたこころをどうケアしていくのか。事故から10年以上たったが、政府と東電に被災者への「心あるある対応」が求められるのはいうまでもない。(完)