読切連載アカンタレ勘太10-1 《阪神巨人どうま戦》 文・画 いのしゅうじ

阪神巨人どうま戦

 テッちゃんと勝がけんかをしている。
3年生になって、新しい教室に入るなり、テッちゃんが、
「巨人の川上や」
と、けしょうまわしを机に広げたのがきっかけだ。勝が、
「なんや、これは」
と、けしょうまわしをひっぱがそうとした。紙でできている。ビリビリとやぶれた。
「何するんや」
「巨人はきらいや」
「きょねん、巨人は優勝した。強いんや」
「ことしはタイガースや」
「弱いくせに」
口げんかですまなくなった。
「タイガースと巨人、どっちが強いか、しょうぶや」
ふだんおとなしい勝が顔をまっ赤にしてテッちゃんにくみついた。
「勝、どうしたんやろ」
と勘太。
馬のりになってなぐりかかる勝に、武史もおどろいている。
「やめなさい」
イッ子せんせいのかんだかい声がとんできた。
さすがに勝も体をおこす。
タイガースと巨人、どちらがつよいかのけんかと聞いて、せんせいはあきれかえった。
テッちゃんは勝に馬のりされたのがよほど悔しかったのか、その日のべんきょうがおわると、
「馬でしょうぶを決めよう」
といいだした。
「馬?」
けげんな顔の勝に、
「どうまや」
どうまは馬とびのひとつ。かんじで書けば「胴馬」。
馬と乗り手の二つのグループに分かれる。馬グループの一人が壁をせにしてたつ。二人めからは次々に前にいる者のまたに頭をつっこむ。
乗り手は、一列につながった馬(どうま)に次々にとびのる。馬がくずれると乗り手グループの勝ち。はんたいに、乗り手のだれかが馬からおちると、馬グループの勝ちだ。
テッちゃんが「巨人組あつまれ」と声をあげると、4人が手をあげた。武史と裕三は巨人組にはいる。
タイガース組のリーダーはもちろん勝。勘太と隆三はタイガース組。
まずはジャンケン。テッちゃんが勝ち、タイガース組は馬、巨人組は乗り手になった。
勝がこうしゃの壁ぎわに立つと、テッちゃんは勘太に小声でいった。
「一番うしろになれ」
「なんでや?」
と勘太がふりかえると、テッちゃんは乗り手グループに何やら策をさずけている。
タイガース組のどうまができあがった。勘太はテッちゃんにいわれたとおり、一番うしろの馬だ。
乗り手のトップは武史。
一番乗りは一番前の馬まですすむのがじょうしき。二番乗りは二番目の馬までいく。ところが武史は勘太の背中の上ではらばいになってうごかない。
二番乗りの裕三は武史にのっかかって、うつぶせにくらいついている。
武史と裕三の重みがぐっと勘太の腰にかかる。とつぜんつけもの石が三つ背中にのせられた感じ。
三番乗りはテッちゃん。いきおいをつけてドーンと裕三のうえにとびのった。
勘太の足にガーンとしょうげきがはしる。ガクンとひざをついてしまった。
「勝った、勝った、」巨人が勝った」
テッちゃんはバンザイしておおはしゃぎ。
「ひきょうやないか」
勝はオニの顔になって、キッとテッちゃんをにらみつけている。