読切連載アカンタレ勘太10-2《ラインダンス》 文・画 いのしゅうじ

勝のいかりがおさまらない。
「勘太がかわいそうやないか」
「ぼく、気にしてへん」
勘太はいつものようにもぞもぞという。
「勝のタイガース好きにはびっくりや」
隆三は勝のきげんをとるように言った。
「なんでそこまでタイガースが好きなん?」
「オキナワや」
「え?」
みんな、なんのこと?という顔だ。
武史はオキナワが気になってしかたがない。つぎの日の朝、イッ子せんせいにたずねた。
「おきなわは、はげしいせんそうがおこなわれた所。たくさんの人がなくなったの。でもどうして?」
「タイガースとおきなわ、関係ありますか」
「タイガース? 勝くんがそう言ったの?」
イッ子せんせいは勝をよんだ。
タイガースの松木健治郎。赤紙がきて兵たいになり、おきなわでアメリカ軍のほりょになった。勝のおとうさんも、ぐうぜん同じほりょのしゅうよう所にいた。
しゅうよう所で野球大会がひらかれることになり、プロ野球の松木がいる、とうわさがひろがった。松木が巨人の沢村栄治からホームランを打ったのを勝のおとうさんはよくおぼえていた。しゅうよう所の野球大会では松木はキャッチャーだった。
と、おとうさんが話してくれたという。
勝ががっこうに上がる前のとしに、松木はタイガースのかんとくになった。そのときからおとうさんはガチガチのタイガースファンだ。
「巨人にだけは負けられん」
おとうさん言葉が勝の耳にタコになっている。
「そうだったの」
イッ子せんせいはフーと息をはいた。
勝はしょくいんしつからもどると、テッちゃんに、
「けしょうまわし破ってわるかった」
とあやまった。
ヒロ子がそばにいた。
「けしょうまわしって何のこと?」
「これや」
タミちゃんが、タカラヅカスターをかいたけしょうまわしをカバンからとりだす。しこをふむかっこうをすると、ヒロ子はプーッとふきだした。
「女の子なんやから、やるならラインダンス」
ヒロ子は思いつくと行動がはやい。
「ラインダンスのレッスンや」
べんきょうがおわると、女の子に声をかけた。ユミちゃん、タミちゃんら5人がしぶしぶ応じた。
サクラの木のちかくで横にならぶ。
一、二、一、二
リズムをに合わせて、片足をL字がたにあげる。
♪おゝ宝塚 タカラヅカ
さすが女の子。テンポよくおどりだす。男の子もあつまってきた。にたっと見ている。
「タカラジェンヌ、だれか知ってる?」
ヒロ子がきくと、ユキちゃんがこたえた。
「あまつおとめ(天津乙女)」
おもわず勘太の口がうごいた。
「かすがのやちよ(春日野八千代)」
勘太のおかあさんは大のタカラヅカファン。タカラヅカに連れていってもらったことがある。
「へえー。勘太、よう知ってるやん」
勘太は女の子たちのまん中にひきこまれた。
「勘太、思いきり足あげるんやで。タカラヅカで見たんやろ」
とヒロ子。
「さあ、一、二、一、二」
勘太は気ばって左足をあげた。そのひょうしに右足がずるっとすべり、ズデンとしりもちをついた。
「タイガース、やっぱりこけた」
手をたたいてよろこぶテッちゃん。勝は「勘太はタイガース組にいれたらへん」とむっとしている。
少しはなれた所で腹をかかえているのはイッ子せんせいだ。