アカンタレ勘太12-3《ダブルレインボー》文・画  いのしゅうじ

「勘太くん、ちゃんとすべれたがなぁ」
隆三のおとうさんはにっこりして、勘太の体をおこした。
タミちゃんは、勘太を見て安心したのか、浮きわにお尻をのせてサーとすべる。
「おもしろ~い」
タミちゃんのきんきんした声が山にこだました。
ユキちゃんも浮きわにのってつづく。
ひとまわりみんながすべったとき、イッ子せんせいが浩二につれられてやってきた。 “アカンタレ勘太12-3《ダブルレインボー》文・画  いのしゅうじ” の続きを読む

アカンタレ勘太12-2《すべり台の滝》文・画  いのしゅうじ

あしたから夏休み。
イッ子せんせいがちゅういする。
「あぶない水あそび、しちゃだめよ」
隆三が教室を出るとき、テッちゃんをつかまえた。
「滝ならええのとちがうか」
ぼくの家の裏山のおくや。人がひとり通るのがやっとの道を行くと、地元の人が「滑滝(なめたき)」とよんでる滝がある。
と隆三はいう。
「すべり台になりそうな滝なんや」
テッちゃんは勘太に声をかけた。
「おもしろそうや。あしたいっしょに行こ」
通りかかったユキちゃんが勘太をにらむ。 “アカンタレ勘太12-2《すべり台の滝》文・画  いのしゅうじ” の続きを読む

アカンタレ勘太12《キュウリ弁当》文・画  いのしゅうじ

 勘太のおかあさんがえがおを作って、北島八百屋のおくさんにペコペコしている。
「エイちゃんはすごい。エイちゃんをやとったおくさんはもっとすごい」
ちょうどエイちゃんがご用聞きからかえってきた。
「勘太くん、大丈夫ですか」
「勘太はね、どんなヘマをしてもさーっと忘れてしまう。アカンタレのええとこやね」
おかあさんはくすっとわらって、
「お礼に何がええやろか」
と、野菜をあれこれみまわす。
キュウリを手にとった。緑がつやつやしている。
「キュウリ五貫目(19キログラム)ちょうだい」
エイちゃんはそろばんをはじいて、
「130本くらいになります。そんなにたくさん、何にするんですか」 “アカンタレ勘太12《キュウリ弁当》文・画  いのしゅうじ” の続きを読む

読切連載アカンタレ勘太 11-2《板イカダのそうなん》文・挿画  いのしゅうじ

勘太のおにいさんの淳吉が「日本の秘境」という本をひらいた。

おかあさんに買ってもらったばかり。めずらしい風景の写真がもりだくさんだ。

淳吉の目はイカダの写真にクギづけ。題は「瀞(とろ)峡の筏(いかだ)下り」。瀞の岩と岩のあいだをイカダがぬっていく。

瀞峡は近畿南部の山奥の深い谷だ。イカダ師はあら波をものともしない、とかいてある。 “読切連載アカンタレ勘太 11-2《板イカダのそうなん》文・挿画  いのしゅうじ” の続きを読む

読切連載アカンタレ勘太 11-1《しんぞうやぶりの丘》文・挿画  いのしゅうじ

「スクーターが入った」

テッちゃんがこうふんしている。

「ラビットや。かっこええねん」

ラビットスクーターはさいきん、都会ではやりだした。クスリの会社につとめているテッちゃんのおとうさんは新しがりやなのだ。

勝がテッちゃんの机の前にたった。

「うちはバタコや」

勝の家のまわりは昔からスギの山。勝のおとうさんは材木の運送をはじめようと、中古のオート三輪を知り合いから安く買いとった。

と勝はいう。 “読切連載アカンタレ勘太 11-1《しんぞうやぶりの丘》文・挿画  いのしゅうじ” の続きを読む

読切連載アカンタレ勘太10-2《ラインダンス》 文・画 いのしゅうじ

勝のいかりがおさまらない。
「勘太がかわいそうやないか」
「ぼく、気にしてへん」
勘太はいつものようにもぞもぞという。
「勝のタイガース好きにはびっくりや」
隆三は勝のきげんをとるように言った。 “読切連載アカンタレ勘太10-2《ラインダンス》 文・画 いのしゅうじ” の続きを読む

読切連載アカンタレ勘太10-1 《阪神巨人どうま戦》 文・画 いのしゅうじ

阪神巨人どうま戦

 テッちゃんと勝がけんかをしている。
3年生になって、新しい教室に入るなり、テッちゃんが、
「巨人の川上や」
と、けしょうまわしを机に広げたのがきっかけだ。 “読切連載アカンタレ勘太10-1 《阪神巨人どうま戦》 文・画 いのしゅうじ” の続きを読む

読切連載アカンタレ勘太 9-2《栃若すもう大会》文・挿画  いのしゅうじ

栃若すもう大会

イッ子せんせいが北島八百屋に顔をみせた。
「エイちゃん、七夕まつりをやったでしょ。おすもうはできないかしら」
栄三はけげんな顔だ。
「みんなでけしょうまわしを作ったそうよ」
きのう、ユキちゃんとタミちゃんがイッ子せんせいの下宿にやってきて、けしょうまわしを見せてくれた、とせんせいはいう。
「すもうの大会ですか?」
「うん、女の子もさんかできるといいわ」
栄三はその日のうちに「七夕まつり実行委員会」のメンバーをあつめた。
「おんな? そらあかん。すもうは男のせかいや」
栄三はねばった。
「おおずもうみたいに土をもりあげるのやない。じめんになわをうめこむだけ」
すったもんだしたが、
「男女平等の時代や」
女性のさんかをみとめ、お宮さんですもう大会をひらくことになった。
4月はじめ、「栃若桜花すもう大会」が開かれた。
広場にどひょうがつくられた。ゴザに50人くらいがすわっている。
その一番まえで正座しているのはイッ子せんせい。ちかくの着物すがたの男性が気になっている。ピリピリしたするどい目なのだ。
しゅつじょうする力士は子どもが30人。このなかに目の見えない登もいる。女の子はユキちゃん、タミちゃんら6人。ほかに中高校生や働いている若ものが10人。
みんな、しめこみ代わりにへこ帯をこしにまいている。
行司は栄三。剣道着にみをつつんでいる。
勘太はさいしょのとりくみに出ることになった。
相手は6年生の勝也。入学したときからいじわるしてきたあの勝也だ。勘太はヘビににらまれたカエル。立ちあう前からいすくめられている。
「ハッケヨーイ」
軍配がかえったしゅんかん、勘太はぐんとかつぎあげられ、どひょうの外にぼーんとほうりだされた。
つぎはユキちゃんの出番。相手はやはり6年生の女の子。がっこう一のおてんばだ。ユキちゃんの顔がひきつっている。立ち上がって1びょうもしないうちに、ユキちゃんはぱっとなげとばされた。
ユキちゃんは勘太のま上におちてきた。さけようとした勘太。顔が上下にひっくりかえっている。
「まるでろくろ首ね」
イッ子せんせいがあとでくすくすわらった。
よく日。
がっこうにこうぎの電話がかかった。
「女をどひょうに入れるとはけしからん」
校長室にイッ子せんせいが呼ばれた。
「校長としてあやまっておきました」
首をうなだれるイッ子せんせいだ。。
数年のち栃錦、若乃花が横綱になり、栃若時代をむかえる。やがて、女性のすもう大会もひらかれる。
とは、校長せんせいは思いもしなかった。
栃若すもう大会はこの一回でおわる。
(せんせい、悔しかったやろなあ)
イッ子せんせいの先見の明におどろく勘太。
(ひょっとしてクラタせんせいのアイデアかな?)
勘太の心の中で、クラタせんせいがチラチラしている。            (この回完)

読切連載アカンタレ勘太 9《けしょうまわし》文・挿画  いのしゅうじ

けしょうまわし

 三学期がもうすぐ終わる月曜日。
テッちゃんが教室にはいるなり、
「すもう見た」
と、みんなにじまんした。
おおずもうは今年(昭和28年)から大阪で三月場所がはじまった。その7日めの土曜日、テッちゃんはおとうさんにつれていってもらったのだ。
「栃錦と若乃花のすもうがすごかったんや」
テッちゃんは勘太をろうかにつれだした。
ぼくが栃錦をやる、勘太は若乃花や、とテッちゃんは勘太のおへそのあたりのベルトをつかんだ。
「ぼくがつりあげる。勘太はふんばるんや」
テッちゃんはつるのをとちゅうでやめ、頭を勘太の胸におしつけた。
「このとき、栃錦のまげがばらっとほどけた」
武史、隆三、裕三らが二人をかこんでいる。
隆三がからかった。
「テッちゃんは坊主頭や。まげないやん」
「やかましい」
勘太の体をはなした。
「水いりや。ちょっと向こうに行け」
「水?」
「行司がすもうを止めて、休ませるんや」
と、かいせつしたのはいうまでもなく武史。
ふたたび四つにくむ。テッちゃんは足をかけて勘太をどーんとたおした。
「栃錦のかち」
イッ子せんせいの声だ。いつのまにか、せんせいも見ていた。
「せんせい、栃錦のファンなの」
「若乃花もつよくなるわよ、きっと」
といって、みんなを教室にいれ、一時間目の国語のべんきょうをはじめる。
すもうがはやりだした。
朝、べんきょうのまえに運動場へ。棒で円をえがいてどひょうにし、とっくみあいをはじめる。
隆三が一番つよく、つぎが武史とテッちゃん。よわいのは裕三。相手のこしにしがみつくしか能がない。その裕三にも勘太はあっさり押し出される。
強いもの、弱いもの。はじめからみんなわかっている。三、四日であきてしまった。
「けしょうまわしをつけよう」
とテッちゃんがいいだした。
「なんや、それ」
「どひょういりのとき、つけるねん」
春休みにはいった日曜日、武史の家にみんながあつまった。ユキちゃん、タミちゃんもやってきた。
「女はどひょうに上がられへん」
「そんなんおかしい」
タミちゃんに目をむかれ、武史は、
「けしょうまわしを作るのはええやろ」
とおさめた。
「栃錦はどんなけしょうまわしやった」
「おぼえてへん」
「イッ子せんせいに見せよ、とおもたのに」
ぶつぶついっている勘太をしりめに、みんな思い思いにかきだしている。
テッちゃんは野球の雑誌をめくって、巨人軍の川上哲二。武史はチャップリン、隆三は大阪城、裕三はかぶと。タミちゃんはタカラヅカのスター、ユキちゃんは美空ひばり。
登が弓をひくアトムをかいているのを見て、勘太は夢でみたアトム号ロケットを思いだした。
(アトムがイッ子せんせいの里に行くから、クラタせんせいがでてくるんや)
勘太は富士山の上を飛ぶアトムをかいた。
みんなのけしょうまわしができたところで、どひょういり。いっせいにしこをふむ。
「ヨイショ」
ラジオは栃錦の優勝をつたえている。              (明日に続く)

 

読切連載アカンタレ勘太 8《アトムごっこ》文・挿画  いのしゅうじ

アカンタレ勘太 1-7

 

アトムの矢

アトムの矢

テッちゃんが自分のせきにつくなり、
「おもしろいんや」
と、カバンの中から一さつの本をとりだした。「少年」というまんがざっしだ。
ページをめくって、テッちゃんは「これや」と勘太に見せる。
『科学まんが 鉄腕アトム』という題で、ツノが二本でているようなかみ形の、たまごみたいな目をした男の子がえがかれている。
「てづかおさむ(手塚治虫)のまんがや」
テッちゃんはとくとくという。
「アトムはロボット。最初はアトム大使やった。ことしから鉄腕アトムになったんや」
武史がまんがをのぞきこんだ。アトムが月にむかってとんでいる。
「アトムごっこやろう」
とテッちゃんがいいだした。
「アトムをつくるんや」
「ロボットなんかつくれるわけないやろ」
といったやりとりがあって、
「弓をやろう。矢のさきにアトムの絵をつける」
と、ちえをだしたのは武史だ。
隆三のおとうさんに弓と矢の材料をたのむと、おとうさんは十人分そろえてくれた。
つぎの日曜日。武史の家で勘太とテッチャンが弓づくりにかかっていると、タミちゃんがユキちゃん、ヒロ子をともなってやってきた。 “読切連載アカンタレ勘太 8《アトムごっこ》文・挿画  いのしゅうじ” の続きを読む