アカンタレ勘太12-3《ダブルレインボー》文・画  いのしゅうじ

「勘太くん、ちゃんとすべれたがなぁ」
隆三のおとうさんはにっこりして、勘太の体をおこした。
タミちゃんは、勘太を見て安心したのか、浮きわにお尻をのせてサーとすべる。
「おもしろ~い」
タミちゃんのきんきんした声が山にこだました。
ユキちゃんも浮きわにのってつづく。
ひとまわりみんながすべったとき、イッ子せんせいが浩二につれられてやってきた。
せんせいは木のかげで服をぬいだ。
目がさめるような黄色の水着。映画のポスターからとびだしてきたみたいだ。
「りんかいがっこうについて行くことになったので、新調したの」
せんせいはてれ笑いをうかべた。5、6年生は丹後の海に行くのがこうれいだ。
「わたしは何をしたらいいかしら」
「見ているだけでええです」
隆三のおとうさんは目のやりばにこまっている。
「ただ見てろ、と言われても」
イッ子せんせいは子どもたちに目をひからせるために来たのだ。
「すべったらええやん」
テッちゃんがせんせいの手をひっぱった。
「こわくない?」
「勘太でもすべれた。こわがってたけど」
とユキちゃんに言われ、せんせいは岩の上にあがる。ひざがぴくぴくしている。
「危なくない?」
健一にというより、自分にたずねているという感じ。
武史の声がとぶ。
「しっかりしてください」
せんせいは、かくごした。
「えい」
両手で岩をこぐようにしてすべりだす。
「キャー」
特急つばめ号より速いスピードで滝をながれていく。
すべりおえて立ちあがったイッ子せんせい。
「キモチイイ」
顔をくずしてはしゃいでいる。
「まだ娘さんなんや」
隆三のおとうさんは、下をむいてにやっとした。
せんせいは子どもたちにまじってそれから2回、すべった。
隆三の家で水着から服に着がえているとき、ザーと雨がふりだした。
「夕立ね」
縁側からイッ子せんせいが外をながめていると、ユキちゃんがふーとためいきをついた。
「せんせい、伊藤絹子みたいやった」
伊藤絹子はミスユニバース世界大会で3位になり、「八頭身」がはやり言葉になっている。
「足がみじかいから七頭身もないわ」
雨は20分ほどでやんだ。
隆三のおかあさんがスイカを切ってくれた。
「どうか、おかまいなく」
とイッ子せんせいが言いおわる前にテッちゃんはもう手をだしている。
「しょうがないわね、男の子は」
「アッ」
武史が声をあげた。
東の空に虹が上と下の二重になってかかっている。
「ダブルレインボーよ。めったに見られないわ。せんせいも見るのはじめて」
イッ子せんせいは虹を指さしていう。
「上のは副虹。色のはいれつはさかさよ」
「ぼくら、虹の子や」
といったのは勘太。
「虹の子!」
イッ子せんせいは、やわらかなまなざしを勘太にむけている。
「作文の題にいいわ。勘太くん、かいてちょうだい」
ウッ!
勘太はスイカの種をのみこんでしまった。