読切連載アカンタレ勘太 9《けしょうまわし》文・挿画  いのしゅうじ

けしょうまわし

 三学期がもうすぐ終わる月曜日。
テッちゃんが教室にはいるなり、
「すもう見た」
と、みんなにじまんした。
おおずもうは今年(昭和28年)から大阪で三月場所がはじまった。その7日めの土曜日、テッちゃんはおとうさんにつれていってもらったのだ。
「栃錦と若乃花のすもうがすごかったんや」
テッちゃんは勘太をろうかにつれだした。
ぼくが栃錦をやる、勘太は若乃花や、とテッちゃんは勘太のおへそのあたりのベルトをつかんだ。
「ぼくがつりあげる。勘太はふんばるんや」
テッちゃんはつるのをとちゅうでやめ、頭を勘太の胸におしつけた。
「このとき、栃錦のまげがばらっとほどけた」
武史、隆三、裕三らが二人をかこんでいる。
隆三がからかった。
「テッちゃんは坊主頭や。まげないやん」
「やかましい」
勘太の体をはなした。
「水いりや。ちょっと向こうに行け」
「水?」
「行司がすもうを止めて、休ませるんや」
と、かいせつしたのはいうまでもなく武史。
ふたたび四つにくむ。テッちゃんは足をかけて勘太をどーんとたおした。
「栃錦のかち」
イッ子せんせいの声だ。いつのまにか、せんせいも見ていた。
「せんせい、栃錦のファンなの」
「若乃花もつよくなるわよ、きっと」
といって、みんなを教室にいれ、一時間目の国語のべんきょうをはじめる。
すもうがはやりだした。
朝、べんきょうのまえに運動場へ。棒で円をえがいてどひょうにし、とっくみあいをはじめる。
隆三が一番つよく、つぎが武史とテッちゃん。よわいのは裕三。相手のこしにしがみつくしか能がない。その裕三にも勘太はあっさり押し出される。
強いもの、弱いもの。はじめからみんなわかっている。三、四日であきてしまった。
「けしょうまわしをつけよう」
とテッちゃんがいいだした。
「なんや、それ」
「どひょういりのとき、つけるねん」
春休みにはいった日曜日、武史の家にみんながあつまった。ユキちゃん、タミちゃんもやってきた。
「女はどひょうに上がられへん」
「そんなんおかしい」
タミちゃんに目をむかれ、武史は、
「けしょうまわしを作るのはええやろ」
とおさめた。
「栃錦はどんなけしょうまわしやった」
「おぼえてへん」
「イッ子せんせいに見せよ、とおもたのに」
ぶつぶついっている勘太をしりめに、みんな思い思いにかきだしている。
テッちゃんは野球の雑誌をめくって、巨人軍の川上哲二。武史はチャップリン、隆三は大阪城、裕三はかぶと。タミちゃんはタカラヅカのスター、ユキちゃんは美空ひばり。
登が弓をひくアトムをかいているのを見て、勘太は夢でみたアトム号ロケットを思いだした。
(アトムがイッ子せんせいの里に行くから、クラタせんせいがでてくるんや)
勘太は富士山の上を飛ぶアトムをかいた。
みんなのけしょうまわしができたところで、どひょういり。いっせいにしこをふむ。
「ヨイショ」
ラジオは栃錦の優勝をつたえている。              (明日に続く)