百鬼夜行夜話 010「九尾の狐 03」片山通夫

華陽婦人

華陽婦人とは、伝説上の妖婦であって、その正体はインド、中国、日本の三国において悪逆ぶりを発揮したとされる金毛白面九尾の狐。

紀元前11世紀頃中国殷の国に紂王とその妃・妲己がいたことはすでに書いた。紂王は妲己に骨抜きにされており妲己の思うままに酒池肉林の乱痴気騒ぎや無実の人々を残虐な処刑法での虐殺を繰り返した。これに対して反乱をおこした後の周の武王となる姫発は殷を滅ぼし、その際妲己は武王の軍師の太公望によって照魔鏡という鏡で正体を看破され、剣で引き裂かれてついには息絶える。
・・・とこれは中国の話。

それから約700年の後、九尾の狐は今度はインドに現れる。
華陽婦人という女の姿に転生し、天竺(インド)のマガダ国の班足太子にとりいって妃となり千人もの人の首を切らせるなど、またも虐殺を始める。あるとき狩にでていた太子は寝ている狐をみつけ矢で射ると矢は狐の頭をかすめ、狐は驚いて逃げ出していく。太子が帰ってみると華陽夫人は頭を怪我していた。そこで天竺での最高の名医耆婆が診察したところ脈から夫人の正体は狐だと見破る。これに焦った夫人は耆婆が横恋慕するために陥れようとしているのだと主張し耆婆との問答に勝ちなんとか周囲の信頼を得ることに成功する。しかし諦めない耆婆がとってきた金鳳山の薬王樹の枝によって遂に正体がばらされて北の空に飛び去っていく。
中国からインドへとなんとも国際的な狐であったが、話はこれまでとはならない。