宿場町シリーズ《東海道・大津宿》文、写真 井上脩身

琵琶湖の光と風がつつむ街
~医師・山脇東洋の足跡を追って~

山脇東洋が眠る誓願寺

京都の繁華街、新京極を北に上がると、三条通りの手前に誓願寺がある。この寺の墓地に山脇東洋が眠っていることを最近知った。山脇東洋は日本で初めて人体を解剖した江戸中期の医師だ。医学史上、画期的なことをやってのけた男が京の人だったとは、恥ずかしながら知らなかった。山脇東洋はどういう人物だったのだろう。東洋の一代をえがいた林太郎氏の『江戸解剖記――小説・山脇東洋』(なのはな出版)を読んだ。300ページに近い物語のほとんどは、医学への真摯な思いと、世評を恐れない大胆な行動に費やされているが、基本テーマは人体の解剖である。読んでいて心地いいものではない。そんななか、ホッとさせられたのは、東洋が妻延子と伊勢参りにでかける道中話だ。京・三条大橋で子どもたちと別れ、東海道を大津宿に向かう二人。「街道ぞいに咲く花や遠くの景色にこころをうつす」と林氏は、ギスギスした日々から解き放たれた東洋の心の内を表す。新型コロナウイルスの感染拡大にともなう緊急事態宣言が解除されて1週間後の6月初め、私も自粛生活のギスギス感から解放されたい一心で、大津宿への旅を思いたった。 “宿場町シリーズ《東海道・大津宿》文、写真 井上脩身” の続きを読む